今回、コーラスの素晴らしさをきちんと表現したかったんですよ。「CHAGE and ASKAっぽいね」って言われても全然かまわない。僕が歌っていますしね。
──コーラスもたくさん入っていて、その歌声もいいですよね。
今回はコーラスをたくさん採用させてもらいました。これまではあえてコーラスを抑えめにしていたんですが、吹っ切れたというか。コーラスも自分の通ってきた道のひとつですし、これまでにどんだけやったかわからないですから。コーラスの組み方、構成の仕方、音のぶつけかた、コーラスでどれだけ教わったか。今回、コーラスの素晴らしさ、人間の声が重なることの素晴らしさをきちんと表現したかったんですよ。「CHAGE and ASKAっぽいね」って言われても全然かまわない。その通りですから。僕が歌っていますしね。コーラスでは石橋優子さんが絡んできてますけど、ボーカルが絡み合っていくのはさんざんやってきた手法ですから。「迷い猫のシャッフル」は滝本成吾くんがアレンジしてくれたんですが、CHAGE and ASKAをすごくリスペクトしてくれて。いきなりコーラスの譜を書いてきて、しかもCAのコーラスに似てるんですよ。「いいですかね?」ってニヤッとしながら聞くので、「いいよ」って(笑)
──この『Anoter Love Song』にはCHAGE and ASKAの「夏の終わり」と「NとLの野球帽」のセルフ・カバーも収録されていて、音楽をしっかり伝えていくんだという意志を感じました。
いろんなことがありましたし、これからもあるでしょうけど、事実として僕はCHAGE and ASKAのひとりですし、これまで作ってきた音楽を後世に残していく作業はやらなきゃいけない。自分で自分の楽曲に蓋をするわけにはいかないですから。皆さんにこんな素晴らしい楽曲があるんだよ、こんなコーラスがあるんだって知ってもらいたいんですよ。「夏の終わり」はファン・ミーティングで歌ってほしい曲のリクエストを取ったときに、上位に来た曲だったんですよ。これはおもしろいなって。僕は完全に忘れてましたから。
豊洲PIT、一体感があって、大好きですね。僕は音楽を通して、お客さんと同じ時間を共有できる時間が大好きで、そのために楽曲を作ってるようなものなんですよ。ライブで得たエネルギーを次の楽曲に反映していくタイプ。去年のツアーで感じたお客さんのエネルギーのおかげで、『Anoter Love Song』を作ることができた。お客さんの笑顔や手拍子を見るとキュンキュンしますから。8月25日はデビュー記念日というアニバーサリーでもあるので、この機会に一緒にいろいろと思い出したりしながら、素敵な時間を共有できたらと思っています。
甲斐バンド THE BIG GIG AGAIN 2016
2016年8月7日(日) 日比谷野外大音楽堂
TEXT:兼田達矢
PHOTO:三浦麻旅子
8月に入ると、「ブラウザを開くと必ず」と言ったある種、特殊な状況が続いていた。ブラウザを開くと必ず、甲斐バンドの日比谷野音公演のWOWOW生中継を伝える広告バナーが目に飛び込んでくるのだ。何も事情を知らない人でも、というか知らない人ほど余計に、8月7日に日比谷野音で行われるライブのことが気になったことだろう。
8月7日に日比谷野音で行われたことは、ひと言で言えば、伝説の更新ということだった。33年前の1983年8月7日、いまでは都庁の建物が建ってしまった場所に約3万人を集めて行われた、都市型フェスの先駆とも言える一大イベント“THE BIG GIG”のセット・リストを、2016年の甲斐バンドがその通りに演奏するというもの。この日のライブ・タイトルには“THE BIG GIG AGAIN”と、“AGAIN”という言葉が添えられていて、それは日本語で言えば“再現”ということになるわけだが、実際にそのステージを見た後では単なる“再現”ではない、やはり“更新”という言葉を使いたくなる。というのも、目の前に立った2016年の甲斐バンドの存在と演奏が圧倒的だったからだ。
伝説の更新ということで言えば、地の利、時の利もあっただろう。33年前には新たな開発を待つ摩天楼街が感じさせる“新時代の予感”がライブに彩りを添えたが、この日は数々の名演も生んできた“ロックの聖地”が持つ神話性と緑濃い周囲の環境が新しい伝説の背景となり、さらには甲斐のMCの言葉を借りれば「歓声よりもうるさい」ほどの蝉時雨と優しく吹き抜ける風が2016年夏の印象をしっかりと刻印してくれる。
“THE BIG GIG”は33年の時の流れとともに正しく更新され、そして2016年8月7日、“THE BIG GIG AGAIN”という新たな伝説が語り継がれる最初の夜となった。